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2006-10-17

10年を客体化する

 秋も深まった。博士論文の締め切りが11月末日に迫っている。予備論文を出したのが1996年の1月。深夜、生まれてまもなくの娘をカゴに入れて寝かしつけながら、ひたすらキーボードを叩いていたことを思い出す。よく泣く子で、あやすのが大変だったが、その娘も小学校5年生になって、決して泣かない気の強い女に育った。その間、実に10年以上が経過したことになる。

 予備論文を出した時点では、博士論文を出すことなど考えていなかった。数年前から、やはり一つのステップを刻むという意味で、出しておくべきだろうと思い、まとめはじめた。しかし、毎年出す出すと言いながら、なかなかまとまらなかった。それはやはり欲があって、自分の理想とするところになかなか到達しなかったからだろう。

 40になって、理想を捨てたわけではないが、自分の実力に忠実になろうという気持ちになってきた。これ以上どれだけ引き延ばしても満足のいくものが書けるわけではないだろうし、また何かまとまった大きなものを書いてしまわないと、いつまでだっても次に進めないということもある。今年はとにかく「出す」ということを最優先課題にして進めてきた。後期に入って何故かやたらと忙しく、ちょっと絶望的になりかけていたのだが、先週あたりから作業がスイスイと進み始め、何んとか先が見えてきたようである。今年は本当に出せそうな気がしてきた。

 内容は、半分が予備論文の文章を引き継いだもので、残りがその後書いたものである。先だっての発表の内容も少し入れるつもりである。同じ人間の文章とは言え、10年もの時間の開きのある文章を一つにするのはかなりの無理がある。しかし、一昨年だったか、根本的に一から書きおろそうと試みて見事に失敗している。だから、今はもうそういう根本的な直しはせず、不完全ではあっても出来る限り良いものにする努力をしているところである。ラインホルト・ニーバーのあの祈りが脳裏を横切る。現実の自分を受け入れるということが今回の執筆の課題である。この10年間遅々として進まなかった自らの研究の歩みをそのまま記すつもりで、書き切ろうと思っている。

 そんなわけで、今は全体の流れを整えながら文章を校180_8057正しているところである。約30万字弱、1頁900字で計算すると、300頁をやや越えるくらいの分量である。たいした分量でもないが、読んで下さる方々のことを考えるとやはり少し気の毒になる。博士論文はエンターテイメントとは対極にあるものと普通は考えられているが、読者を飽きさせない工夫もある程度は必要だろう。出来るだけ文章を絞って、回りくどくないようにしようと思っている。ただ、基本的に回りくどい人間なので限界があるとは思うが。

 ともかく、これは自分の10年を客体化する作業となりそうである。客体化してみると、何と貧弱な10年だったのだろう、ということになるに違いない。鏡に映った自分を見るような、録音された自分の声を聴くような、何とも恥ずかしいものがある。しかし、これが「仕事」というものなのだから仕方がない。人生の折り返し地点に立ち、しっかりと自分というものを見つめることが必要だろう。

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コメント

桶川さんの後期時代の同級生、カリメロです。
桶川さんの10年よりもカリメロの10年の方が貧弱かと思われます。
ぜひぜひ、間に合うように、万難を排して頑張ってください。
しかしカリメロは一人取り残されてしまうなあ(焦り)

投稿: カリメロ | 2006-10-17 14:18

Congratulations!!!

その後の審査もあるでしょうが、ここまで至ったことを祝し、心からおめでとうと申し上げたい。

「ここまで至った」中には、欲を留め、ここで区切るという決断もありましょうが、やはり蓄積の成果です。ここまで至った、ご自分を褒めてあげることも必要でしょう。

桶川さんの分野を日本語で書くと、どうしても長くなるものです。普段なら必要のない主語や代名詞を挿入しないと意味が不明確になるし、格助詞を使いまわして関係代名詞の代わりにするとなると、どうしても反復も多くなります。正確さが第一ですから、お気になさることもないでしょう。

(computer data は、少なくとも1セットを自宅外に保管されることをお薦めします。私は、母屋に2セット、別棟の車庫に1セット、友人宅に1セット置き、万一に備えました。わが師から、ドイツの女性がデータを紛失し、学位をあきらめた例を聞いたからです。また、その後に、出版社からdiscをくださいと、声が掛かることもありますから。老婆心ながら。)

MWW

投稿: Dr. Waterman | 2006-10-20 00:33

桶川です。

カリメロさん、Watermanさん、激励を感謝いたします。ココログの不具合でしばらくコメントが出来ず、失礼いたしました。

「スイスイ」などと書きましたが、その後、作業は停滞し、難渋しています。なかなかそう簡単にはいかないものです。

ところでカリメロさん……。どなたなのでしょう。「カリメロ」というお名前になにかひっかかりがあるような、ないような……。

投稿: 桶川利夫 | 2006-10-21 09:35

だからー、同級生だっていってるじゃん!
後期で同級生って、もう一人のストイックなヒトと私と桶川くんの
三人だったよね~。わかった?

投稿: カリメロ | 2006-10-22 21:54

ああ、なるほど。前期はちがったんだけ。その説明より、口調でわかりました。またちょくちょくコメントしてください。

投稿: 桶川利夫 | 2006-10-23 09:04

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