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2007-05-15

ないものはない

Kinkame_2 

 前から気になっていた看板だが、商品があるのかないのか決定不可能な文章である。

①当店には存在するすべてのものがあり、当店に無い商品などこの世にはございません。
②当店には、この世に存在するすべてのものがあるわけではありませんから、当店に無い商品をお求めになられてもいかんともすることができません。

しかし、よく考えてみると実は可能な意味がもう一つあることに気づく。

③「ないもの」は、当然のことながら無いのであって、存在するのではない。

 ③はまるで哲学者パルメニデスの命題のようである。③は②と一見同じように見えるが、②が「この店には無い商品もある」ことを示唆しているのに対して、③では「無い商品があるという言い方は間違い」であることを示唆しているいるから、実際には両者は対立している。

 ちなみにこの店は質屋であるが、これが質屋の類の決まり文句なのか、それとももっと深い意図があるのかどうか私は知らない。

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コメント

ついしん

こ建物の壁をよく見ると、右からカタカナで「ナイモノハナイ」と書かれてあることに気づきました。相当古くからの建物とキャッチコピーのようです。

投稿: 桶川利夫 | 2007-05-15 22:56

「だめなものはだめ!」

覚えていますか?私もうろ覚えなので、勘違いのところがあるかもしれませんが、消費税導入が争点の選挙のときのこと、当時社会党党首だった土井たか子先生が、橋龍陣営に反対して発していた名ゼリフだったと記憶しています。

この場合、③の意味とパラレルですね。

ついでに、私がこれまでに発見した面白看板を紹介します。
「デスカウント・ストア」

はからずも、相当ブラックな看板でした。――あなたが死ぬまでの時間を、カウントしてあげましょう。死の時まであと10、9、8、…っていう店?

投稿: トロウ | 2007-05-16 00:23

 そういえば、そういうのありましたね。土井さんにはもっと頑張って欲しかった。

 「だめなものはだめ」は②じゃないかなあ? でも、たしかに③のようにも見えるな……。②と③はやっぱり同じなのかなあ? ……と考えているうちに、どうも先に書いたことを撤回したくなってきましたので、ここに訂正を書いておきます。

 ②と③は同じか違うかということから考えます。「だめなものはだめ」を②とパラレルに解釈すると、「この世にはしてはいけないことがあります。してはいけないことをしようと言われても、してはいけないとしか言いようがありません」ということになります。他方、「だめなものはだめ」を③とパラレルに解釈すると、「<してはいけないこと>は当然<してはいけない>のであって、<してもよい>ということはない」とでもなりましょうか。

 そうすると両者の違いは、③がconstativeな言明――すなわち「ダメ=ダメ」という同語反復事態を述べた陳述文――で、②はperformativeな言明――「ダメ=ダメ」と言うことによって、消費税をかけようとする与党の要求を退ける文――ということになるように思います。

 ところで、この文の場合、①にあたるものは思いつきません。そこが「ない」と「ダメ」の違いなのでしょう。「ない」という言葉は、「ダメ」とは違って、肯定と否定という文法構造の基礎を構成する要素です。そのために、使い方によっては、一つの言明全体を否定する機能をはたしてしまいます。①では、最初の「ない」を後の「ない」が否定することで、意味は「ある」に転じます。②では、最初の「ない」という言明が後の「ない」によって再確認されて、「ある」という意味が強められます。後の「ない」の機能がどちらともとれることが、①と②の決定不可能性を生んでいるわけです。

 さて、そうすると、「ダメなものはダメ」というという文の場合、①と②は「ない」の用法によって生じる対立で、②と③はconstativeと受け取るかperformativeと受け取るかによって生じる対立ということになります。しかし「ダメ」という語には「ない」のようなの文法上の特権的な機能はないから、①にあたる意味は生じず、②と③の違いだけが生じます。

 したがって、私が次のように私が書たのは、どうも誤りのようです。

――②は「この店には無い商品もある」ことを示唆しているのに対して、③は「無い商品について、それが在るというのは間違い」であることを示唆しているいるから、両者は対立している。――

 「この店には無い商品もある」という文は、「ないものがない」という言葉を敷衍して解釈した私の表現であって、正確には対立はこの私の表現と「無い商品について、それが在るというのは間違い」だという③の意味のあいだにあるにすぎません。だから、②と③との違いはそういうことにあるのではなく、上に述べたような点に実はあるのです。そうか、なるほど。

 すいません。トロウさんのコメントに答えようとしているうちに、一人で勝手に盛り上がってしまいました。うーん、やはり論理学をちゃんと勉強していないので、こういうことはどうも苦手ですね。(豆太郎先生、見ていたら教えてもらえませんか?)

 ちなみに、「デスカウントストアー」は、私だったら多分気づかない思いますね。英語の出来る人から見るときっととんでもないのでしょうけど。他にも面白い看板ってありそうですね。

投稿: 桶川利夫 | 2007-05-16 19:50

私も、②で解釈すべきかそれとも③かで、実は相当(5秒)迷いました。しかし桶川さんが今回、整理してくださったお陰で納得できました。

桶川さんのご説明を(私にとって)分かりやすく言い換えますと、
②:No is no. あるいは No means no. とか。要するに、No という同じ言葉が、主語と補語となる( No=no )関係です。
③:No, no, no! Oh NO!! 叫び、絶叫による訴え。

であってますか?するとやはり、土井さんのアレは、②ですね。(それでもやはり、③も若干入ってたかな?)

投稿: トロウ | 2007-05-16 20:51

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