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2008-06-01

論文発掘

 埋もれたままになっているはずの大福先生の論文がまだまだあるはずだと書きましたが、先日ある神学者の古い論文を読んでいて大福先生の論文が引用されてるのを見つけました。「神学における歴史と自然の問題」というタイトルで、1965年発行となっています。私が生まれた年です。

 さっそくR大図書館で調べると、A学院大学の紀要の第9号に載っているはずが、なぜかその号だけが蔵書から抜け落ちている。その前後はすべての号がそろっているのに大福先生のまだ見ぬ論文の号だけが欠けているのです。これはいかにも不自然だ。誰かが抜き取ったのか? とすれば一体誰が? 何のために? 謎は深まるばかりです。

 しかし家へ帰ってHPに載せている著作リストで確認すると、同じタイトルの論文が1966年発行になっています。これはR大学の雑誌に載った著作リストに基づいて私が作成したものなので、その雑誌を確認するとやはり1966年となっていました。どっちが本当なのだろう? 図書館で調べたとき、第9号(1965年)の前後に先生の論文はなかったと思うのですが、見落としたかも知れない。何せ9号が欠けていることに唖然としたので、そこまで気がまわらなかったのです。そんなわけで、これについては再調査したいと思います。

 ところで、それとは別に同じ雑誌のもっと古い号に、大福先生の論文を見つけました。"The Theology od Friedrich von Hugel" という英語の論文で、その邦訳も同じ大学の別の雑誌に「フリードリッヒ・フォン・ヒューゲルの神学」というタイトルで掲載されています。英文の方が1957年、邦訳は1958年の論文で、どちらもHPのリストには載っていなかったため、至急追加しました。先生は56年の春に米国留学から帰国されていると思うので、恐らく日本語の雑誌論文としては最も初期のものになるのではないかと思います。同じ年に「現代状況と福音の理解」という論文も発表されていて、これは後の1964年の『実存論的神学』の第一章になった論文ですから、この時期はまさに実存論的神学の形成期に当たると言ってよいわけですね。

 フォン・ヒューゲル(Friedrich von Hügel 1852-1925)と言っても、不勉強な私はトレルチの「歴史主義とその克服」に序文を書いた人としてしか知らず、先生が論文の冒頭でご自分が影響を受けた神学者としてE・ルイス、N・ベルジャーエフ、R・ニーバー、P・ティリヒの名を列挙されながら、「以上あげた神学者の誰も私の神観形成に、フリードリヒ・フォン・ヒューゲルほどに影響を与えなかった」(『基督教論集』第六号、2頁)と書かれているのには驚きました。今調べてみると、著書のいくつかの場所で先生はフォン・ヒューゲルに言及されているのですが、現物を読んでいない私には印象が薄かったようです。

 しかしもう一つ驚いたのはこの論文の書き出しの一行です。

現在までに、私の神学的思索に大きな影響をおよぼした人々として私は数人の神学者をあげることが出来る。カール・バルトはその一人である。(1頁)

真っ先にバルトを挙げておられるのは意外です。たしかにバルトは二十世紀のプロテスタントを代表する神学者であって、広い意味では当然先生にも影響を与えてもいるでしょう。ただ、もし現在先生がこの頃をふり返られた時、はたして同じような言い方をされるかどうか。

 たとえばこの後の文章でも、

もし、今日、誰かが、カール・バルトの神学は不合理主義であると言うならば、彼は不条理な言葉を語っているのである。(11頁)

として、バルトを擁護されていますが、私は先日バルトに対するこれと正反対の先生の評価をお聞きしたばかりです。(「ばかり」といっても、もう1年くらい前のことになりますが……)。そういうバルトに対する先生の態度を見ている者としては、論文の冒頭でいきなりバルトからの影響について語られているというのはとても意外に思えました。

 ただ、その後の頁で先生はバルトに対して批判もされていて、「創造者に対応する被造物における比論が、ただ単にキリストによる特殊な神の言葉を受け取る可能性の中にのみ存在すると主張するバルトの傾向」は、不合理主義と言われても仕方がないと書かれています。(12頁)。

 結局よく読めば、基本的に現在の先生の立場と矛盾することが述べられているわけではないのですが、先生のバルトに対する批判はこの時代からどんどん厳しいものになっていったし、この論文ではほんの少ししか触れられていないブルトマン(「現代状況と福音の理解」の方では大きく取り上げられている)ら実存論的な神学者たちからはより多くのものを吸収されるようになっていったのではないでしょうか。

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