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2013-12-26

講義の品格

 前回、クリスマスまでにアップできればと書いた野呂先生の論文だが、かなりの量に上る未発表の論文や遺稿などとともに別の形で公表することになった。しばらくお待ちいただきたい。

 今回新たに見つかったものの中には1990年度、つまり立教大学での野呂先生の最後の講義の録音テープがある。これは通年の講義を全22回にわたって記録したもので、大変貴重なものだ。毎回几帳面に録音したトロウさんだが、このテープの存在は忘れていたという。彼女にとってはものすごく懐かしい内容だと思うのだが、申し訳ないことに彼女よりも先に私が聞かせていただいている。

 それにしても、驚いたのは野呂先生の講義の格調の高さというか品の良さだ。あまりに丁寧な言葉使いなので、ひょっとしてこれは朝日カルチャーセンターで年配のご婦人に向けて語られた講義だったのではと疑ったぐらいである。しかし、トロウさんに確認してみると、そうではない。R大学の講義であるとのこと。改めて内容と過去の講義のデータを照らし合わせてみると、これはどうも文学部共通科目「民衆文化の世界」であろうという結論に達した。つまり、聞いているのは学部の学生たちに違いないのだ。

 そこで先生は、聴講者に対して敬語を使われている。たとえば「先週は、・・・ということを申し上げたわけですが・・・」とか、「もし興味をお持ちになった方がおられたら、・・・お読みになることをおすすめします」とかいう具合で、その先にいるのは先生の孫くらいの若者たちなのが想像できないくらいである。また、このテープの第1回は、その前に行われた初回のオリエンテーションの授業(この回のみ記録なし)で間違えて板書してしまった文字の訂正から始まるのだが、「もしみなさんの中に万が一ノートをとっておられる方があると悪いので・・・」と言って、訂正箇所を板書されているのだ。

 テーマは日本の民衆宗教についてで、私が4回まで聴いたところでは、「観音経」や「般若心経」が取り上げられている。実に平易な語り方ではあるが、内容的にはきわめて高度でオリジナリティーの高いものである。当時の私は、まだ日本の民衆宗教にまではとても関心が持てず、この授業も受けていなかったようである。しかし、様々な宗教を学ぶようになって見れば、この講義内容の独創性が非常によく分かる。他の場所では決して聴くことも読むことも出来ない内容が語られていたのだ。そこにいた学生のどれくらいがそのことに気づいていただろうか。

 内容的にももちろんだが、大学での講義のあり方やスタイルなどについても、今の私に大変多くのことをこのテープは教えてくれている。これも貴重な記録として何らかの形で公開できるようにしたいと思う。

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