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2014-02-01

1990年度野呂芳男講義「民衆文化の世界」

 ユーカリスティアの方に投稿しようと思ったら、長いことやっていなかったので、入り方が分からなくなり、仕方がないのでこちらにアップします。ちょうどアッキーニャになってしまって困っていたのでちょうどよいかも知れません。次回までに、入り方を学んでおきます。

 さて、野呂先生の遺品の中にあった講義テープを一通り聴き終わりました。立教大学での最後の年(1990年)に通年で行われたもので、文学部の共通科目「民衆文化の世界」であろうと思われます。聴講者は10人くらいで、マイクは使わず、肉声で語られたものを、講壇の上にテープレコーダーを置いて録音したもののようです。当時大学4年の林さんが毎回お世話をされたようです。ただし、先生が録音ボタンを押し忘れたりされて、何回か録音されていなかったこともあり、全26回分全てがそろってはいません。(特に最終回のB面が空白だったのは残念)。しかし、1年を通しての先生の講義が、これだけ見事に残されていたことは大変な驚きであり、このような貴重なものをお貸し下さった林さんには大変感謝しています。

 この講義のテーマは、ずばり「民衆宗教」で、観音信仰、薬師信仰、稲荷信仰、弘法大師信仰などの日本の民衆仏教をはじめ、シャーマニズム、陰陽五行思想、占い、神霊信仰、丸石信仰などの日本の庶民の信仰、それにヨーロッパの民衆宗教としてカタリ派、スピリチュアリズムなどが紹介され、最後はヤコプ・ベーメで締めくくられています。実に多様な内容で、先生の関心の幅広さに圧倒されます。また、一つ一つの素材を扱うその手つきが見事で、講義とはこんなに楽しいものかと改めて思いました。と同時に、どんな際どいあるいは、とんでもないとされるような素材を扱う場合にも、学者としての慎重さや誠実さを失わなれない態度には、私も見習うところが大いにありました。

 それにしても、24年の月日が経っているにもかかわらず、聴いているとつい昨日にも録音されたかのように鮮明に録音されていて、この間に流れた時間を思わず忘れて聞き入ってしまいました。当時の先生の思索がその息づかいとともに甦ってくるようです。

 この講義を聴くことができる環境にあったはずの若き私が聴講者のうちに入っていないことから分かるように、その頃の私は民衆宗教への先生の傾倒ぶりを全く理解できていませんでした。その後、私も多少なりとも仏教や日本の宗教について学ぶ中で、一般的な仏教史の中で触れられる主要な宗派の教えや宗祖たちの思想と、実際にわれわれが生活のそこかしこで触れる仏教との間にいかんともしがたい距離を感じていましたが、そうした日本の宗教をめぐる疑問に、この講義は見事に一つの答えを与えてくれています。私は、そのような距離は、仏教が日本の宗教性の中で変質していった結果であると漠然と考えていましたが、それは事態の一面でしかないのだと知ることができました。

 日本で民衆の間に本当に根を下ろしたのが、空海の密教や稲荷信仰であり、観音信仰や地蔵信仰であったということは、民衆が本当に求めていたものをそれらが与えることが出来たことを意味しています。空海の思想や弘法大師信仰は驚くほどキリスト教と似ていると先生は言われます。先生は、キリスト教が対話の相手とすべきは民衆仏教だとお考えでしたが、そのことの意味が今ではよく理解できます。民衆仏教と対話することで、キリスト教自身が自分の中にあったあるものに気づくということがありうるかも知れない、とこの講義を聴きつつ感じました。

 講義の概要を以下にまとめました。全体は4章に分かれるはずでしたが、時間が足りずに最後の章は語られませんでした。各テーマごとに紹介されていた主な参考文献も掲げておきます。(※<参>は、講義で紹介された主な参考文献。)

第1章 日本の民衆宗教
第0回  1990-04-17 (録音なし)  オリエンテーション
第1回 1990-04-24  観音経 <参>大久保良順『観音経入門』大蔵出版
第2回 1990-05-01  観音経(続)/般若心経 <参>小原弘万『般若心経いろはかるた』朱鷺書房
第3回 1990-05-08  般若心経(続)
第4回 1990-05-15  般若心経(続)
第5回  1990-05-22  薬師如来 <参>五来重(編)『薬師信仰』民衆宗教史叢書、雄山閣
第6回 1990-05-29  神霊信仰とそれについての私見  <参>前田博(編)『神霊―神霊を語る16人』ワールドナック (笹本論文、大橋論文)
第7回 1990-06-05  シャーマニズム <参>桜井徳太郎『シャーマニズムの世界』春秋社                 
第8回 1990-06-12  (録音なし)   神仏集合
第9回 1990-06-19  神仏習合

第2章  仏教と日本の民衆宗教 仏教の誕生と展開 稲荷信仰 大師信仰
第10回 1990-06-26 釈迦の思想   <参>ひろさちや『インド仏教思想史』上・下、 大法輪閣
第11回 録音なし   大乗仏教の成立 仏塔崇拝 
第12回 1990-07-10 大乗仏教の展開 仏塔崇拝とは別の傾倒
第13回 1990-09-25   弘法大師空海 
第14回 1990-10-02  (録音なし)    弘法大師信仰
第15回 1990-10-09  稲荷信仰の現状  <参>直江広治(編)『稲荷信仰』雄山閣
第16回 1990-10-16   稲荷信仰の内容 荼枳尼天信仰と空海
第17回 1990-10-23   石の信仰 丸石信仰  <参>『丸石神:庶民のなかに生きる神のかたち』木耳社、1990年
第18回 1990-10-30   陰陽五行思想 占い

第3章 ヨーロッパの民衆宗教   カタリ派  スピリチュアリズム
第19回 1990-11-13   カタリ派     <参>フェルナン・ニール『異端カタリ派』渡邊昌美訳、文庫クセジュ、白水社
第20回 1990-11-20   カタリ派     <参>       アーサー・ガーダム The Great ・・・最初の2章
第21回 1990-11-27   カタリ派と今日の宗教運動 がーダムの続き  
第22回 1990-12-04 (録音なし)   カタリ派とスピリチュアリズム 
第23回 1990-12-18   スピリチュアリズム  <参>ジョン・レナード『スピリチュアリズムの神髄』近藤千雄訳、国書刊行会、1985年
第24回 1990-010-08  (最終回)ヤコプ・ベーメ B面録音なし  <参>南原実『ヤコブ・ベーメ:開けゆく次元』牧神社、1976年 /ヤコプ・ベーメ『黎明(アウロラ)』牧神社、1976年

 今回テープに録音されてたものを、MP3ファイルに変換することが出来ました。ずいぶん簡単にこのような変換が出来るようになったものです。その他にも、もっと後年のユーカリスティア教会で行われていた講座のテープが、電子データとして大量に残っているようです。これらはもちろん、今後なんらかの形で公開できるようにしたいと思っています。

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